妊娠するためには、女性のすべての生殖器官が正常に働かなくてはなりません。子宮、卵管卵巣や腟ばかりでなく、女性ホルモンの分泌をうながす脳の視床下部(ししょうかぶ)、下垂体も大切な役目を果たしている器官です。
主な女性不妊の原因としては、以下のようなものがあります。
〈排卵障害〉
卵巣の中で卵胞が育ち、卵子となって子宮に飛び出すまでの間に、何らかの異常が起きて排卵がうまくいかない状態。無月経や不規則な月経、さらに基礎体温の測定で約2週間続くはずの高温期が短いといった症状が見られます。
〈卵管の閉塞や癒着〉
卵管がつまったり、狭くなったりすると、それらの移動が難しくなり、受精が起こらなかったり、妊娠が成立しにくくなります。また感染症や子宮内膜症などで周囲と癒着(ゆちゃく)すると、卵巣から排出された卵子が卵管内に入りにくくなるので不妊につながります。
〈子宮筋腫やポリープなど子宮疾患〉
受精卵が着床し、胎児が発育する子宮に筋腫やポリープがあると、着床がうまくできなくなります。
〈子宮頸管の炎症、粘液分泌異常など〉
子宮頸部を手術した後や炎症などがある場合、排卵期に見られる水様透明な頸管粘液が分泌されません。そのため精子が子宮内に到達しにくくなり、不妊症につながることも。また女性の体内で免疫異常によって精子の運動を止めてしまう抗体が作られ、不妊症となる場合もあります。
また男性側の主な疾患は、大きく3つに分けることができます。
〈造精機能障害〉
男性不妊の原因の約80%を占める。精子を造る能力に問題があり、精液の中に精子がみられなかったり、数が少ない、もしくは運動率が低下するという症状。
〈精路通過障害〉
精子の通り道のどこかが塞がれており、精巣で作り出された精子が射出精液にみられない状態。
〈性機能障害〉
勃起ができず挿入できない、勃起はするが射精がうまくいかない、あるいは性欲が低下しているなどの理由で、精子が女性の生殖器管に到達できない状態。
他にも前立腺、精嚢などにできた炎症によって臓器が機能不全に陥っている副性器機能異常などが不妊の原因となっているケースもあります。
このように男女ともに原因はさまざま。一方で、不妊治療は目覚ましい進化を遂げています。排卵期に性交を行うタイミング法に始まって、男性の精液を採取して洗浄して子宮に注入する人工授精、卵子と精子を受精卵にして子宮に入れる体外受精、人工的に卵子に精子を注入する顕微授精と次々と高度な医療技術が確立されてきました。
1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。