仕事を持つ女性にとって、産前産後休業(以下、産休)がスムーズにとれるのかは最初の大きなポイント。どのようにすれば職場の人に祝福されて産休に入り、出産後あたたかく迎えてもらい復帰することができるのでしょうか? そこで今回は、産休に入ってすぐのプレママ、現在育休中で生後3か月の赤ちゃんのママ、産休・育休から復帰し2児の子育て中のママのお三方にお集まりいただき、産休、育休にまつわる先輩ママの体験談や苦労をうかがいました。
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育休明けの職場復帰 キーワードは“パパと一緒に!”
【座談会メンバー】
S・Fさん(29歳)/ファッション関連企業「アッシュ・ペー・フランス」が運営するアートギャラリー「hpgrp GALLERY TOKYO」で、アシスタントとして勤務。今年7月に長女を出産。現在、育休中。2013年4月復帰をめざしている。
・進行:ミキハウス広報部 マネージャー 高坂(こうさか)一子
妊娠報告、産休取得、引き継ぎ…先輩ママはこうやって乗り切った!
――産休は、労働者に認められた権利とはいえ、出産前後は職場に穴をあけることにもなるので当事者としてはいろいろ悩んでしまうことも多いかもしれません。今日は、先輩ママの皆さんにそれらにどのように対処されたかお聞きできればと思います。まずは、妊娠がわかったときにそれを職場にどのように伝えましたか?
S・Fさん(以下、Sさん):私は妊娠がわかってすぐに直属の上司に伝えました。実は、つわりがひどくて、点滴を受けなければいけなくなるほど体調が悪くなってしまったんです。その頃、忙しい時期でもあったのですが、早めに伝えたほうが後々迷惑をかけることもないと判断しました。上司自身がお父さんとして、お子さんの保育園のお迎えに行ったり、残業や休日出勤をしないように工夫したり、仕事と育児を両立していることを知っていたので、迷いなく報告できたという背景もありました。
H・Yさん(以下、Hさん):私も1人目のとき、直属の上司が“イクメン”を公言されている方だったので早い段階で報告しました。ただ、安定期に入るまではもしも何かあったら…ということを心配してくれ、部長レベルへの報告は妊娠5ヶ月に入ってからになりました。
T・Tさん(以下、Tさん):私の場合も、妊娠発覚後すぐに具合が悪くなってしまって、水も飲めない状態で家から一歩も出られなくなってしまいました。上司には伝えましたが、1週間くらい休んでしまったので、同僚や後輩にはミーティングの場で上司から報告してもらいました。
――SさんやTさんのように、劇的な体調の変化があったなら、早く報告したほうが自身への負担は少ないかもしれませんね。その後、引き継ぎなどはどのようにしましたか?
Hさん:
1人目のときは通常の仕事の合間に引き継ぎの書類を作っていきました。引き継いでくれた人がすごく優秀で「大丈夫! わからなかったら周りに聞くね」と言ってくれて。職場の人たちがみんなで私の作った資料をしっかり読んでくれました。
Tさん:
つわりがひどく、2ヶ月間家から出られなかったので、後輩からメールが来たら返信したり、お客様へ催事の案内を代わりに出してもらったりしていました。その他のこまごまとしたことは、体調がよいときにまとめて対応していました。
Sさん:
私もメールと電話でやりとりしましたね。当時私の部署は、ギャラリーに出ているスタッフが20代後半から30代前半の女性3人でした。私が既婚、もう一人がもうすぐ結婚という状況でした。上司はこれから部下の私たちが妊娠・出産を経験する可能性があると認識していて、日頃から自身の人生設計をふまえてキャリアプランを考えること、残業せずに仕事をマネジメントすること、ミーティングでお互いがやっているプロジェクトを把握しておいたりするようにと職場で言われていたので、同僚と情報共有ができていて本当に助かりました。
産休前もがんばりすぎず、時にはまわりに甘えることも大事
――皆さん、上司や職場の理解があって素晴らしいですね。産休前に自分自身で気をつけていたことはありますか?
Tさん:
お店に立っているときに妊娠時特有の貧血で顔が真っ青になったときに、同僚が「休んできてください」と言ってくれて、最初はそのたびに悪いなと思っていました。けれど、後から彼女の言葉に甘えてしっかり休むということも必要だとわかりました。体調が悪いままお店に出ていても、同僚にもお客様にもいいことはないですよね? その代わり、体調が落ち着いたときに、できるだけのことはやろうと意識していました。
Hさん:
産休に入ることは避けられないことなので、その前にできることはすべてやっておくということは当たり前だと思います。ただ、1人目のときはついつい遅い時間まで働きすぎて、出産前に体調を崩してしまったので、2人目のときは20時には絶対帰るように仕事を進めていました。
Sさん:
私も、できるだけ細かい点についても引き継ぎを行うように気をつけました。会社に行けなくなってしまった間はメールなどでやりとりし、他のスタッフに業務を助けてもらいました。つわりがおさまり、出社できるようになってからは後任の方も来てくれて、引き継ぎ期間を設けることができました。
Tさん:
実は私は正社員として入社したのですが、結婚時に時短の契約社員を選択していたので、自分から産休を取りたいですと言っていいのかという思いがありました。国が定めた産休取得の勤務日数などはもちろん満たしているのですが、前例が多くはなかったので。でも、とても早い段階で、上司から「産休取らないの?」と言ってもらえてすごくうれしかったことを覚えています。だからこそ「引き継ぎなどはしっかりやって産休に入ろう!」という意識が強まりました。
――産休は基本的に、パートタイムで働いている人も、アルバイトの人も取れるように法律として定められています。でも、私も復帰したときに正社員ではなく時給(パート)社員だったから気持ちがわかるのですが、出産や子育てなどの事情があってもフルタイムで働き続けている人に対して、自己都合を優先している私も同じ恩恵を受けていいのかという思いがありました。他の会社の契約社員の人もそういう気持ちを持っている人が多いかもしれませんね。
産休取得後の職場との付き合い方、自分の感情との向き合い方は?
――無事、産休を取得できた後も、新たな心配事が生まれてきたのではないでしょうか。例えば、自分がいない間に取引先との関係が悪化しないか、職場での人間関係に変化が生まれないか、またきちんと復帰して仕事ができるかなど。それらの感情とは、どのようにして向き合いましたか?
Hさん:
自分の企画した案件が、私の産休・育休中にリリースするということがありました。サービスの仕事って子どもみたいなものなので、最後まで面倒をみることができないことへの寂しい気持ちはありましたね。でもその時、先輩から4、5年もいなくなるわけではないし、たった1、2年の間でみんなから忘れられるようなことはないのだから、安心して休みなさいと声をかけてもらって、心がすごく軽くなったのを覚えています。
Sさん:
私は作家さんや顧客の方との人間関係に悩みました。ギャラリーでの仕事は、作家さんや顧客の方と単に仕事上での関係にとどまらない信頼関係を築くこともやりがいの一つですが、産休中に忘れられてしまったり、疎遠になってしまったりするのではないかと心配で。でも、上司が「女性だから仕事と育児のどちらかを諦めるのではなく、どちらもやれる方法を考えよう」といつも言っていたので、産休に入ってからも仕事に参加している意識を持って、できることをしようと思いました。
――みなさん責任感を持って仕事をしているので、産休に入ったからといって、思い切りよく仕事のことを忘れられるというわけではないんですね。では、産休中の職場とのコミュニケーションはどのようにとっていましたか。
Tさん:
私は最近産休に入ったばかりなのですが、お客様との約束事だけはきちんと守るように、後任の担当者に「来週お届けの指定日がありますよ」というようなメールをしたりしています。
Sさん:
私も産休に入って最初の頃はメールや電話などでやりとりしていましたが、産後はほとんどありません。
Hさん:
出産後は育児に時間がとられてしまうので、産休前に一応“カタはつける”という意識は大事だと思います。また、産休に入った後は同僚と「元気にしてる?」と連絡をとりあったり、出産後にもらったお祝いのお礼を写メール付きのメールで返事をしたり、職場の仲間とのコミュニケーションは大事にしています。
――最近は、Facebookもあるので投稿を通じて間接的に状況を知らせることもできますよね。
Sさん:
産休中は、仕事に関する情報収集やギャラリーの展示の告知、お客様とのコミュニケーションにFacebookはとても活用できましたね。
――それはいい使い方ですね! そもそも会社やお客様から信頼されていて復帰を期待されているから、連絡をもらったり、メールなどでのやりとりも続いたりという部分がありますよね?
Hさん:
産休がスムーズに取れるかどうかは、それまでに自分がどれだけがんばってきたかということとも関係すると思います。結局、産休前も育休後も、仕事を一生懸命やって会社の中でいかに存在感を発揮していけるかということがとても大切だと感じています。
産後は新しい自分、新しい仕事のやり方に出会えるチャンス!
――ご自身の経験を踏まえて、産休取得や復帰をめぐる状況についてどう感じていますか?
Sさん:
私が勤めているギャラリーの母体はファッション関連企業なのですが、アパレル系の会社は産休制度があまり活用されていないという話も聞きます。けれど、弊社の企業理念に「人が生きるということ」という言葉があり、もともと個人の働き方を尊重してくれる風土がありました。それが産休制度にも活かされていて、とても感謝しています。また、社会全般の話でいうと、女性だけでなく男性も育児に主体的に関わることのできるような社会システムになればいいなと思います。
Tさん:
私の場合も、上司の理解があってスムーズに産休に入ることができましたが、友人たちに話を聞いても、ここ数年で産休への理解が非常に高まってきているのではないかと思います。電車に乗っていても、20代、30代のお子さんがいらっしゃる若いパパ世代の方は席を譲ってくださる方が多いです。特に若い世代で妊娠・出産への理解が高まっているのはないでしょうか?
Hさん:
ヤフーでは、産休からの復帰率が95%を超えました。毎年産休を取得し、出産して戻ってくる人が増えていくので、「いつ、戻ってくるの?」という言葉が行き交い、復帰するのが当たり前の雰囲気になってきています。ただ、実際の運用面で不満の声が上がっているのも事実です。最近社内の有志で「ヤフーウーマンプロジェクト」というものを立ち上げて、未婚・既婚問わず女性社員に向けて、今後のキャリア設計について考えようというワークショップを企画しています。
――産休への理解も深まってきているようですし、後に続いていく後輩ママたちのためにも、お手本になるような働き方・社内制度の利用をしていきたいですね。最後に、これから産休をとるプレママの皆さんへメッセージをお願いします。
Sさん:
自分自身を振り返ると、産前は「無事に生めるか」という直近のことしか考えられず、出産後はどうしても目の前の育児でいっぱいになってしまいました。長い目でのキャリア設計を、出産前から考えておくことをおすすめします。
Tさん:
仕事と育児の両立ができるか不安に思っていましたが、今日先輩ママのお話をお聞きして、これから新しい世界が待っているのだと考えたら少しホッとしました。私も出産経験があるからこそできる接客など、仕事で新たなスキルを発揮していきたいと思います。
Hさん:
復帰後は仕事する時間がどうしても減ってしまい、ほかの人と同じ土俵には立てないかもしれないと悩んでいた時期がありました。でも実際は、以前に比べて効率的に働くことができるようになりました。今では、時間だけが価値ではなく、自分にしかできない仕事をできるようになろうと気持ちが切り替わりました。そんな成長の機会を与えてくれる出産・育児を、支えてくれる周りの人たちに感謝しながら、ぜひみなさんに楽しんでほしいです。