I:具体的な治療法についてもお聞きしたいです。「アトピー性皮膚炎と診断されら、抗炎症作用のあるステロイドの軟膏が処方されます」とのことですが、ステロイドに関してはまだ誤解が多いように思います。実際に「ステロイドは副作用が激しいから使いたくない」という方もいらっしゃいます。そこまで強く思ってなくても、できれば避けたい、小さな子どもには使用したくないという方は少なくないように感じています。
山本先生:そうですね。最初にお伝えしておきたいのは、ステロイドは医師の適切な指導を受けて使えば問題ないし、ガイドラインでも標準治療として推奨されている薬です。しかし、ご指摘のようにステロイドという薬を誤解されている方も多い。実際、ステロイドについて完全に誤った知識で書かれた本もあります。科学的根拠に乏しい記事や情報に影響をうけて、症状をかなり悪化させてしまい、ひどい状態でうちの病院に来るお子さんもいます。
山本先生:最近はそういうケースも少し減ってはいるのですが、それは我々がステロイド治療をすることを明言しているので、本当にステロイドが嫌な親御さんが連れて来ていないだけの可能性もあります。
I:う〜ん、だとするとなんとも言えない気持ちになりますね…。
山本先生:ガンの治療でもありますが、民間療法に頼る方は一定数いらっしゃいますね。ガンと違って、アトピーはよっぽどひどくならないと亡くなることがないので、民間療法が入りやすいかと思います。アトピー性皮膚炎を悪化させると睡眠障害など生活に大きな影響を及ぼしますし、その子のQOL(生活の質)を著しく低下させます。成長障害や発達にも悪い影響を与えます。ですからちゃんとした治療を受けてほしいと切に願っております。
I:一方でこれは大人の例になりますが、“脱ステロイド”をして治ったと言っている人に会ったことがあります。それまでなんとかステロイドで症状を抑えていたけど、思い切って止めてみたと。いっとき、めちゃくちゃ悪化したけれどもその辛い時期を越えたら治ったというんです。仮に治ったことは事実だとして、それはステロイドを抜いたから治ったのではないんでしょうか?
山本先生:その方を診てみないとなんとも言えませんが、その方の状態が(一時的に)よくなったのだとすれば、それは別の要因があるかもしれません。
I:ちなみにステロイドは治療薬ではなく、炎症を抑える薬ですよね?
山本先生:はい。アトピーそのものを治療するものでも、体質を変える薬でもありません。炎症を起こしている状態を抑える、良い肌の状態に持っていくための薬です。根本的に治療するわけではないから、使っている間だけよくなるんだったら意味がない、と思われるかもしれませんが、そうではありません。
塗っている間、炎症が抑えられることで肌の質も徐々に変わっていくんです。つまり良い状態が長く続けば続くほど、悪化はしにくくなり、予後もよくなるというわけです。よい状態がよい肌に変えていくようなイメージです。それに伴いお薬の量を減らしていくんです。
I:量を減らしていって、いつかは止められるように。
山本先生:そうです。ただステロイドを早く止めたいからと、すぐに減らしちゃって悪化させてしまっては意味がありません。アトピー性皮膚炎を悪化させる圧倒的に多い理由は、適切な治療が行われていないということです。
実際、ステロイドで肌の「表面」がきれいになったからとすぐにやめてしまう親御さんが結構います。皮膚の中に残っている目に見えない炎症は薬をつけないと再発してしまうんですね。そうやって表面がきれいになったからといって止めて、また再発させて…それを繰り返しているうちにアトピー性皮膚炎を悪化させてしまうことは多いんです。