その乳児湿疹、アトピーかも!? 
専門医が指摘する、赤ちゃんのアトピー性皮膚炎と「早期介入」の重要性

2022.07.07

ミキハウス編集部

アトピー性皮膚炎とは、かゆみのある湿疹が、慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す病気のこと。皮膚の“バリア機能”が低下することで、外からアレルゲンなどの刺激が入りやすくなり、これらが免疫細胞と結びつき、炎症を引き起こすと考えられています。また、かゆみを感じやすい状態となり、皮膚を掻くことによりさらにバリア機能が低下するという悪循環に陥ってしまいます。

「乳児期の湿疹を適切に治療せず、症状を悪化させてしまうこともよくある」「アトピー性皮膚炎を悪化させないためには早期介入が大切」と指摘するのは国立成育医療研究センターのアレルギーセンター医長・山本貴和子先生。そんな山本先生にアトピー性皮膚炎の予防法や治療法についてお聞きしました。

山本 貴和子(やまもと・きわこ)
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター アレルギーセンター医長 
山口大学医学部卒 医学博士 日本小児科学会指導医 日本アレルギー学会指導医 
専門分野は小児科学、免疫アレルギー学、疫学、公衆衛生、小児環境保健。

 

生後1か月、2か月でもアトピー性皮膚炎になっている?

生後1か月、2か月でもアトピー性皮膚炎になっている?

I:アレルギー性疾患の原因のひとつとも言われているアトピー性皮膚炎ですが、新生児でも発症するものなのでしょうか?

山本先生:はい。欧米の研究でも生後かなり早い時期にアトピー性皮膚炎を発症する赤ちゃんは珍しくないという報告があります。また当センターで生まれた赤ちゃんの中にも、新生児期から発症するケースがありました。

ただ、日本の病院では、実際にそう診断されることは稀だと思います。たとえば1か月健診で乳児湿疹があっても「乳児湿疹なら自然に治るから、しばらく様子を見ましょう」と言われることが多いです。仮にアトピー性皮膚炎でも、です。そして、適切な治療をしなかったために症状を悪化させてしまうこともよくあるんです。

I:乳児湿疹と言われていても、実はアトピー性皮膚炎ということがあるんですね。

山本先生:ええ。ただそれは誤診ではありません。乳児湿疹というのは、乳児期にできるすべての湿疹を指す言葉で、アトピー性皮膚炎も乳児湿疹のひとつです。図に表すとこういうイメージですね。

乳児湿疹

山本先生:乳児湿疹の中にはアトピー性皮膚炎だけでなく、皮脂が過剰に分泌されて起こる皮膚炎の「脂漏性皮膚炎」おむつかぶれなどの「接触皮膚炎」があります。中にはいくつかの皮膚疾患が同時に起きている赤ちゃんもいて、そういう皮膚のトラブルを総称して「乳児湿疹」と呼んでいます。

余談になりますが、日本の場合、これまでの社会的な背景から「アトピー性皮膚炎」が忌避すべき病名となっていて、親御さんも言われたくないし、診断されたくない “風潮”があります。乳児期早期の診断は医師も難しいですし、乳児湿疹としても無治療で経過をみて、適切な治療がなされずに悪化させてしまうケースがそれなりにあるのです。

I:なるほど…。それはつまり初期段階で“見落と”しがあるということですか?

山本先生:見落としというより、日本皮膚科学会などの診療ガイドラインでは、アトピー性皮膚炎と診断できるのはかゆい湿疹が2か月以上続いてからとなっています。だから乳児期早期の健診でアトピー性皮膚炎の疑いが濃い場合でも医者は「乳児湿疹ですね」と診断し、親御さんも「なんだ大したことないんだ」と安心してしまう。そして、安心しているうちにこじらせてしまう…というケースが散見されるわけです。


I:それはちょっと問題ですね。そもそも乳児湿疹と言われたときに、アトピー性皮膚炎を含めて、いくつかの皮膚疾患の可能性を考えないといけないのですね。

山本先生:そうですね。当センターの調査結果をみるとかゆみのある乳児湿疹の赤ちゃんのうち、約10%のお子さんは湿疹が続くんですね。1か月健診の後で湿疹が治らないという赤ちゃんを当センターで診たら、実はアトピー性皮膚炎だったということは多いです。アトピー性皮膚炎の診断がなくても、お薬が必要な皮膚炎には無治療ではなく適切な治療をするのが大事だと思います。

I:アトピー性皮膚炎になる要因は多岐に渡ると思うのですが、やはり遺伝的要因は大きいのでしょうか?

山本先生:そうですね。両親がアレルギー性疾患にかかったことのある赤ちゃんは体質的にリスクが高いと言われています。ただ、おっしゃるようにアトピー性皮膚炎には様々な要因があることも事実です。


I:以前の取材で、新生児からの適切なスキンケアで、アトピー性皮膚炎を抑制できるというお話をお聞きしました。

山本先生:はい、新生児期からの肌の保湿がアトピー性皮膚炎を防ぐという研究結果のお話ですね。ただし、100%防ぐというわけではないです。当センターの研究では、アトピー性皮膚炎の家族歴のあるハイリスクの赤ちゃんに新生児期から保湿を続けても34%はアトピー性皮膚炎を発症しています。

I:そうでしたね。ハイリスクの赤ちゃんは保湿剤を塗布していてもアトピー性皮膚炎になってしまう…ですよね?

山本先生:その通りです。ちゃんと保湿剤を塗布してもなるときはなるんです。アトピー性皮膚炎に家族歴があったり、皮膚が乾燥しているなどバリア機能が低下しているお子さんは保湿剤を塗布すれば、アトピー性皮膚炎が予防できる可能性は十分にありますので、保湿剤を100%否定しているわけではありません。ほかに大切なことは湿疹を発症しても早くに湿疹に介入すれば、悪化を抑えられるし、食物アレルギーの発症が抑制できるということです。だからこそ乳児期からの皮膚に適切な治療は大切なんです。

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